「世界ごはんたべ記」のせつめい
「世界ごはんたべ記」は、ライターのがぅちゃんによる外食の記録です。どんなお店で何を食べたか、どんなことを感じたか……などなど、じゆうに書いています。
海外ぐらしが長いので、異国のお店はひんぱんに登場します。とはいえ「世界」と名乗っている手前、母国のお店も発表していかねばなぁと思っています(……か?)。
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前回の記事「#12 大阪の多国籍料理屋/L&L」はこちら。「世界ごはんたべ記」の記事一覧はこちら。
マハネユダとは
「JLM(エルサレム)マハネユダ・グループ」と書かれた看板。
「マハネユダ/Machneyuda」は、エルサレムにある有名なレストラン。どれくらい有名かというと、海外メディアがイスラエルの食文化を紹介するときに(ほぼ)必ず名前が挙がるくらい有名だ。アッコのウリブリ、テルアビブのアブハッサン、これらとならび、マハネユダは「イスラエルの三大名店」みたいな印象がある。
ジャンルは「地中海料理」と「中東料理」…つまりレバント料理。そこにインターナショナルなトレンド(イタリアン、フレンチ、スパニッシュetc)を絡めたアップデートが施されているので、「現代イスラエル料理」ともいえる。現代のイスラエルの味覚を牽引しているお店だと思う。
マハネユダグループは、イスラエルを中心に世界で10店舗を運営している。パリの「Shabour」やロンドンの「The Barbary」は世界的にも有名だ。経営陣のシェフ3人もそうそうたるメンツで、「Assaf Granit」「Uri Navon」「Yossi Elad」は日本のお笑い界でいう「さんま」「たけし」「ひとし」みたいな感じか。
「TEDエルサレム」で登壇する、Assaf Granit。
上の三人は、食に興味がなくてもイスラエルに住んでいる限りは、嫌でも(べつに嫌ではないけど)顔をみかけるような人たちだ。名前より先に顔を覚えられるような人びと。でも冷静に考えると、「さんま」「たけし」「ひとし」は言い過ぎかもしれない。まあでも、彼らはとりあえず有名ではある。
マハネイェフダ市場
マハネイェフダ市場の雰囲気。
レストランのマハネユダを語る上で無視できないのが、近所にある「マハネイェフダ市場」。エルサレムの台所のような場所で、京都の「錦市場」や東京の「アメ横」のような存在だ。そんなマハネイェフダ市場のごりごりローカル食材を使っていることも、レストラン・マハネユダのうりのひとつ。
マハネイェフダ市場のパン屋。
中東スイーツ屋。
お惣菜屋。
肉屋。(イスラエルは国民一人当たりの鶏肉消費量世界一位)
ロシアン魚屋。
チーズ屋。(豆腐みたい)
スパイス屋。6シェケル(180円)均一。
駄菓子屋。
ユダヤ教グッズ屋。(アマゾンでも買える)
ナス専用のグリル。
サムギョプサルとかもできそう。
おやつなど買うイスラエル軍(IDF)の若者。
わりとぶっきらぼうに機関銃をぶらさげてる。
マハネユダの雰囲気
店内の様子。
エルサレムといえば物々しい聖地のような印象があるが、それは「東エルサレム」の話だ。東エルサレムは、国際法上イスラエルの領土ではないので、エルサレムではない。マハネユダはイスラエル側の「西エルサレム(以下:エルサレム)」にある。ちなみに観光名所の「嘆きの壁」や「聖墳墓教会」は東エルサレム側にある。
嘆きの壁。祈るユダヤ教徒。
聖墳墓教会。祈るキリスト教徒。
マハネユダはエルサレムの住宅街のような地域にあって、なにも知らずに歩いていたらスルーしてしまいそうなくらい、飾りっ気がない(とはいえ妙にクリエイティブな雰囲気が漏れているし時間によっては入店待ちの客がたむろしているので、ただならぬ空気は感じる)。
マハネユダのエントランス。
順番待ちエリア。
店内はとにかくにぎやか、というか正直言ってうるさい(不快ではない)。元気溌剌! そういうエネルギーが店内で爆裂している。容姿端麗でブライトな20代後半くらいのスタッフが多くて、元気! ナマイキ! スーパーフレンドリー! が三拍子揃った完全イスラエル産ナマ搾り120%
厨房はもはや舞台。常に誰かが何かを撮影している。
落ち着いたコーナーもあるっちゃある。(ただし音楽は爆音)
2階の雰囲気。
階段にスイカとキャベツ。
マハネユダグループのHRの人選センスがいいのだろうか、入店した瞬間、(スタッフも含む)オーラが他のどのレストランとも違う。完全にマハネイェフダが領域展開している。インテリアとか特にこだわってないのになぜか居心地が良くて帰るときにすごい寂しくなる友達の部屋、みたいな気持ちになった。
スタッフの仲の良さが伝わってくる。
角田信朗とか勝谷誠彦とかが写ってた大阪のイスラエル料理屋とはまた違う感じ。
関連記事:世界ごはんたべ記#10 大阪のイスラエル料理屋「ルディーズクラブデリシャス」
マハネユダのメニュー
プリント一枚。
メニューはモノクロのプリント一枚に簡潔にまとめられてる。(でた、匠メニュー。*)インテリアに妙に凝ったりしてないのに心地よさがある店内のあっけら感とシンクロしてて良い。村上春樹の小説を読んでいるときにドビュシーが聞こえてきそうな、子供にも刺さりそうな悪くないクリシェ。
*関連記事:海外キマグレごはん#番外編 美味い店を見抜くための4項目
メニューの構成は、一品、スターター、メイン、デザート。アイテムは、刺身、ケバブ、ファラフェルといったイスラエルの定番料理が揃うが、そんじょそこらのフツウやあらしまへんでというのが、文字を一瞥してわかる感じだ。だから現地の人に刺さってるんだなと。(イスラエルの料理の予習が必要な気がする)
パンとタヒーニ
パンとタヒーニ。
欧米のレストランでは…というかイスラエルのレストランでも「パンとバターorオリーブオイル」が突き出しのような感じででてくるが、マハネユダではパンとタヒーニだった。タヒーニは中東のゴマペーストで、イスラエルのレストランではソースやディップとして提供される。コーヒーカップでご対面はここが初めてだ。
タヒーニ。
ポレンタ
メイソンジャーのようなビンで登場。
「ポレンタ/Polenta」はいちおうイタリア料理といわれていて、コーンミールを粥状に煮たものに乳製品(バターなど)をまぜた食べ物。イスラエルの上品なレストランにはたまにある。ベシャメルソースとかホットケーキの生地をナマで味わっているような、甘美でぜいたくな味だ。でも甘くはない。
マッシュルーム、パルメザンチーズ、トリュフオイル入り。
ブリとイチジクの刺身
白いニンニクのクリームソース(acho blanco)の上に、具が寝かされてる。
「刺身/Sashimi」はイスラエルの定番料理といっていいほど、わりとふつうにある。ただし「生魚のスライスを醤油とわさびで食べる」というルールには縛られてない。その正体は「肉厚のカルパッチョ」といったところで、フルーツや野菜と食べるのが一般的。
イチジクがブリのふとんをかぶっとるで。(アーモンドとネギも◎)
イチジクに刺身なんてめちゃめちゃトリッキーな感じがあるが、イスラエルではかなり理にかなったチョイスだと思う。なぜならイチジクはユダヤ教の聖書にも記載された伝説の七食材の一つであり、現地ではスーパーで毎日みかけるレベルで普及しているからだ。日本のコンビニの「ランチパック」くらい、よく見かける。
果物屋のイチジク。@カルメル市場/テルアビブ
「果物をひとつ使ってイスラエルを表現せよ」なんて言われたら、ザクロかイチジクかブドウかデーツを思い浮かべるイスラエル人は多いと思う。イチジクがマハネイェフダ市場にあるのは容易に想像がつくし、「そうやんな」と納得できる。奇抜にみえて、実は超王道というのが良い。心地いいカルチャーショックだ。
ザクロジュース屋もよくある。@カルメル市場/テルアビブ
ザクロをしぼるおっちゃん。@カルメル市場/テルアビブ
関連記事:定番だけ厳選!イスラエル・テルアビブのおすすめ観光地9選
スズキのファラフェル
ザアタルが塗られたパンにファラフェルが鎮座ドープです。
「ファラフェル/Falafel」は中東で食される豆のコロッケで、イスラエルでは最強の定番料理と言ってよい。イケアのカフェテリアにもホットドッグと同列で並ぶのが「ファラフェルサンド」だったりする。しかし魚のファラフェルは初めて食べたよ(スズキ自体は魚料理として最もポピュラーなチョイス)。
ファラフェルらしい、鮮やかな緑。
ふつうのファラフェルは、クミン、タマネギ、ニンニク、パセリ、コリアンダー(パクチー)を含むので、食べるとおくちがホクホクの草原となるのが面白いところだ。マハネユダのファラフェルは、そこに海の気配を感じる。スズキくんが草原で泳いでる。つけあわせのキャベツの漬物(ピクルス)もうまい。
大草原の海を閉じ込めたボール。そんな感じだ。
ドイツのザワークラフトを彷彿とさせる。
ひきにくのケバブ
マハネユダが産んだスター、シャクシュキット。
ヘブライ語で「シャクシュキット/שקשוקית」と名付けられていて、マハネユダの名物メニューみたいなことになっている。レシピ*もネットに公開されている。お店のメニューには「ひきにくのケバブ」と説明があるものの、それだけでは説明できない料理だ。イスラエル人も「これケバブなん?」となると思う。
イスラエルではケバブが定番料理なのだが、いろいろ種類があって呼び方も様々。日本の「そば」が「ざるそば」も「ラーメン(中華そば)」も意味するのに近い現状がある。ちなみに「ケバブ」は日本でいう「つくね」か「やきとり」と同意なのが一般的。シャクシュキットの外見は「セニヤケバブ」に近い。
セニヤケバブ。平たいパテにタヒーニをかけて焼く。@ティシュリーン/ナザレ
シャクシュキットを「ひきにくケバブ」とするマハネイェフダの態度、日本の焼き鳥屋が「鶏そぼろ丼」を「シン・ヤキトリ丼」と呼ぶみたいな展開でアツい。なんでもいいけど、「ソースをかけた肉料理」史上いちばんおいしかった。デミグラスソースとかヤメやヤメや! ごまとヨーグルトにせぃ! と、全日本の洋食屋に言いたい。
チーズハンバーグは明日からヨーグルトハンバーグでいい。そう思えた。
*マハネユダのシャクシュキットのレシピ
ラムの油、仔牛のひきにく、クローブ、ハリッサ(北アフリカの辛いパプリカの調味料)、クミン、ハワイジ(イエメンのスパイスミックス)。これにタヒーニとヨーグルトがかかっている。このヨーグルトがヨーグルトじゃない。酸味のある純白のチーズソース。「鶏のレバー」がフォアグラ味だったテルアビブのイタ飯屋をおもいだした。
鶏レバーのリゾット。@La Repubblica/テルアビブ
この店はこの店でやばい。
マハネイェフダの住所:Beit Ya’akov St 10, Jerusalem, Israel
出演-おしながき-
マハネユダ/Machneyuda
ポレンタ/Polenta/58 ILS(1740円)
ブリとイチジクの刺身/Yellowtail Sashimi/68 ILS(2040円)
スズキのファラフェル/Sea bass Falafel/53 ILS(1590円)
ひきにくのケバブ/Shikshukit/56 ILS(1680円)