グランパ恋愛日記#4 ソーシャルディスタンスの導入

LINEで送る
Pocket

自己紹介と、「グランパ恋愛日記」の説明

僕は30代の日本人です。彼氏は60代の米国人です。彼には孫がいるので、正真正銘のグランパです。ぼくたちの雰囲気を有名人で例えるなら、ミュージシャンの「岡崎体育」とアメリカ合衆国国務長官の「マイクポンペオ」がつきあってる、そんな感じです。

「国籍」「人種」「年齢」「性別」などといったカップルの要素のうち、どれか一つでもイレギュラーなら珍しいと言われます。でも僕たちは、全項目でイレギュラー。だからどんなコミュニティに属しても、いつもなんかの理由で浮きます。

そんなぼくたちについて綴ったのが「グランパ恋愛日記」です。

暮らしを記録したり、彼を観察したり、それらの感想を述べたりします。おじいちゃんとおにいさんが2人で暮らすテラスハウスみたいなものでしょうか。観察したいわけじゃないけど、2人きりだからばれちゃう。そんな、カップルのこぼれ話です。



前回の記事「#3 歳をとってごめんなさい」はこちら。「グランパ恋愛日記」の記事一覧はこちら

ベテラン

今年ついに、僕が「ソーシャルディスタンス」を導入して30周年を迎えた。「人間から離れよう」「せっけんで手を洗おう」「エレベーターのスイッチは手の裏(第二関節)で押そう」。そういったことを、今まで勝手にやり続けてきた。

いま流行りの「在宅勤務」に関しては、彼との同棲が始まってからだから、もう5年のベテランだ。でも僕のキャリア-在宅人生-は、会社勤務の彼にとって「何をやってるか分からない」まま、何年もすぎた。彼は日本語も分からないから、僕が何を何文字書こうが、彼には何の影響もない。

キザミノリ

なんの話だ? となる前に、「近いようで遠い心の話」から離れて、「ソーシャルディスタンスの話」に近づこう。

散髪屋は最悪だ。なぜなら、(僕が暮らすイスラエルでは)理容師は電話で喋りながら作業するからだ。「まず電話から切れ」と、僕はいつも少しキレている。それとは別に、キザミノリ化した髪がふりかかって、首がチクチクするのも、耐えられない。僕は、1秒でも早くシャワーしたい。

そんな僕とは違い、彼は散髪を何とも思ってないし、直後にシャワーもしない。「僕の黒い直毛と違って、彼の白い軟毛は落ちても気づきにくい」という身体的特徴も関係していると思うけど、彼はキザミノリも気にならないらしい。というかそもそも、彼は、朝以外にシャワーに入らない。

シャワーのタイミングに関しては、単純に文化の違いだと思う。彼のアメリカの親戚は「なんと私も夜派! 朝は風呂場が混むもんね!」と、僕にすり寄ってきた。僕にとって「寝る前のシャワー」は、選択の余地がないのだけれど。これは「グレタさんの地球温暖化に対するスタンス」と全く同じだ。

「地球温暖化を信じるか信じないか?」という次元に物申すグレタさん。

エイリアン

彼はレギュレーションで機能する人間だ。「夜にシャワーをあびる」という規定は無いから、夜に運動をしようが、髪を切ろうが、そのまま寝る。でも、シーツの汚れは異常に気にする。なのに「シーツは絶対に汚れてはいけない」という世界設定だし、それを根拠に「俺は繊細」と自虐もする。

彼のエイリアンな世界観に、今の地球はまだ追いつけてない。だから仕方なく、我が家の地球人代表の僕が「バグ-矛盾-が発生します」と報告する。でも彼は「え? 虫-bug-? どこ? 殺せ」と、彼辺此辺な感じだ。「夜のシャワー」の導入には、新薬の開発くらい、時間と手間がかかった。

彼は結局、「なんだかうるせーが、すりゃいいんだろすりゃ」という感じだった。でも、頭脳-コスト-を使わずに実施できたのだから、上出来だ。「君のワガママを、また聞いてあげた俺」ということで、彼の中では「徳」もアップしたようだし。みんな幸せになれば、僕はそれでよい。

まあ、僕たちはいつもこんな感じだ。

家のシャワー。

恋敵

今回のコロナ禍で、彼もついに「ソーシャルディスタンス」を導入した。彼は、権威が発表する「教科書的なこと」には抵抗しない。というか、「教科書的なこと」以外のことを導入しない。つまり一貫性のある人間だし、そういうところは信頼に値する。

食料、トイレットペーパー、薬、何もかも今すぐ買ってこい! 彼の決断は、迅速で明確だった。でも当時の彼は病気で歩くことも困難だったので、僕が実行部隊として店に狩り出された。すでにあった2ヵ月分の貯蓄を2.1ヵ月分に増量する緊急性はないと感じてたから、気が向かなかったけれど。

漫画「HUNTER×HUNETR」13巻より。

コロナ禍で「菌の付着が危ない」と学んだ彼は、「使い捨てウェットティッシュ」を携帯するようになった。去年、イスラエルのダイソーでウェットティッシュを買おうとした僕を嘲笑った彼とは、まったくの別人だ。コロナは彼の性格をも変えてしまった。コロナが恋敵なら、僕は負けていただろう。

コロナに人格をアップデートされた彼は、外出前に、「使い捨てウェットティッシュ」を「セッティング」する。使い捨てウェットティッシュを一枚抜き取り、それをジップロックに入れて、厳重に保管する。まずは「使い捨てウェットティッシュ一枚を封印したジップロック」の完成だ。

使い捨てウェットティッシュ一枚を封印したジップロック(見本)。

外でモノに触れる機会が発生する度、厳重に保管された一枚をジップロックから取り出して、対象物を拭く。拭いた後は、もとのジップロックに戻す。菌で汚染された使い捨てウェットティッシュを、再び封印するのだ。菌のリークは命に関わるから、毎回の作業は慎重を要する。

Ziploc。

彼はそうやって、一枚の使い捨てウェットティッシュを、慎重に慎重に慎重に使い回す。サステナブルな「使い捨てウェットティッシュ」の誕生だ。ペーパータオルなどを無神経に消費するアメリカンライフから、脱却したのだ。我が家の人類にとっては「大きなリープ」なのかもしれなかった。

月での作業の様子。@スミソニアン航空宇宙博物館/アメリカ

無敵

革新的な彼の行動とは違い、僕は原始的な対策を徹底している。「付着した菌を体内に入れない」が至上命題だ。とはいえ、モノを触らずには生きていけないので、「菌に接触する機会を減らす」「目・口・鼻・性器などの粘膜をむやみに触れない」などで工夫している。

仮に、今回のコロナ禍が「ゴールを1点を決められたら死ぬサッカー」だとする。僕が暮らすイスラエルが「サッカーフィールド」だとして、現在、そこには13,000個以上のボールが放たれている。ピンチだけど、自分のゴールを封鎖すれば、負けようがない。僕はそういう考えだ。

ディフェンス重視の僕と違って、彼はオフェンス重視。「行動加点システム」を採用していて、「ウェットティッシュで拭く」とか「人から1歩は離れる」とかの「固定アクション」を1つ実行するごとに、「正解!」と、1点追加される。自分の得点が高ければ負けないという、攻めのルール設定だ。

そんな彼のゲームでは、僕はよくペナルティを受ける。なぜなら、「彼のペナルティを僕が指摘する」は、彼のフィールド上では反則行為だからだ。無敵の彼に追いつくためには、僕の脳も地球も、もっともっと急いで回転する必要がある。

漫画「HUNTER×HUNETR」13巻より。

常に勝者の我が家の得点王は今、アメリカに帰国し、コロナとは全く関係ない病気と戦っている。ソーシャルディスタンスという意味では、僕やイスラエルから一気に8,907kmも離れたわけで、チート級の一手だったと思う。文字通り、手が届かないところまで、圧倒的に引き離されてしまった。

ムーンライト伝説/DALI。

次の記事「#5 思い出のドライブ」

LINEで送る
Pocket

About がぅちゃん 243 Articles
この記事を書いたのも、あの記事を書いたのも、がぅちゃんです。かんたんなプロフィールはこちらです。