海外キマグレごはん#14 イスラエルのクナーファ

「海外キマグレごはん」の企画説明-おしながき-

「海外キマグレごはん」では、私が海外で食べたごはんを紹介します。日本国外で食べた自炊以外のごはんなら、なんでも紹介したいと思っています。ただし、何を「ごはん」とするかは、その日の気まぐれで決めようと思っています。

そしてこの企画、必ずしも「海外らしいごはん」ばかりではないです。「イスラエルのケバブ」の日もあれば「イスラエルのラーメン」の日もきっとあります。私はイスラエルに住んでいるので、イスラエルで食べた料理の発表は多くなる見込みです。

とはいえ、アメリカのハンバーガー、イタリアのピザ、クロアチアのクロマグロなど、できるだけ多くの国から多岐にわたる料理を紹介したいと考えています。何卒、よろしくおねがいいたします。



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イスラエル料理は、まだ無い

「クナーファ/Kunafe」はイスラエルの定番デザートのひとつだ。「イスラエル料理」と呼んでいいかもしれない。なぜ「呼んでいいかもしれない」かというと、「イスラエル料理は、まだ無い」ことになっているからだ。これには歴史が関係している。

この国の歴史は、まだ72年しかない。千年以上「日本-ヤパン-」をやってる国と比べたら、途方もなく若い。だからまだ、世界に通じる「イスラエル発祥の料理」が誕生してない。つまり「日本=寿司」のような、国内外で認められる「母国料理」が無いのだ。

イスラエルで人気の、スシ・サンドイッチ(揚げた版)。

そもそも、イスラエルは東欧のユダヤ人が作った国であり、初代首相はロシア帝国出身。でも地域的には、中東でもあり地中海沿岸国でもある。そんな場所で、東欧や中東の食文化と世界のユダヤ教食が集結して融合した。だから、イスラエルの料理は「融合移民料理」とか言えるのかもしれない。

「融合移民料理」の最たるものが「イスラエリ・ブレックファスト」。

とはいえ、イスラエルにも現地料理や定番料理はある。でもやっぱり移民の料理なので、料理のルーツをたどると、作った人(の親族etc)の母国料理にたどり着く(個人的なアレンジが加わってたりはする)。料理の元ネタが国外ですぐ見つかるので、「発祥」と言いづらい現状がある。

そんなイスラエルの料理の要素をまとめると「東ヨーロッパ料理×地中海食×中東料理×ユダヤ教食、が混ざった料理」となる。でもこのまとめかたは、日本料理と韓国料理と中国料理とタイ料理をいっしょくたにして「アジア料理」と呼ぶくらい、途方もなく歯がゆい。

イスラエルのスシ・プレートwithパッタイ。(つまりこういう状態)

イスラエルの料理を説明するときの論法として、「答えがないことをいかにポジティブに言い換えるか」が定型化している気がする。「乱暴」を「自由」と呼ぶ、のような。現地で流行る料理には、テンプレに個性を忍ばせたバズ狙い(?)みたいなのも多い気がする。愉快だとは思う。

イスラエルの食に関するドキュメンタリー「In Search of Israeli Cuisine」。

麺を焼くデザート

今回の主役「クナーファ」の属性は「中東料理」だと思う(中東とはどこか、という問答は今は割愛する)。地域差があるので呼び方も様々。クナーファ、クナーフェ、クナフェ、ケナーフェetc。英語ならkunafah、kunafeh、knafeh、kenafeh、konafa、kunafaとか。途方もない。

クナーファがどんな料理かをふた言でまとめると、「シロップ漬けのカダイフ麺*をチーズと焼き、ピスタチオをまぶした料理」となる。「麺を焼くデザート」とか「熱くて甘いチーズ」とか、日本には無いタイプの料理だ。写真が無いと、想像しづらい料理だと思う。

*カダイフ麺。スーパーのお菓子作りコーナーに売ってる。

クナーファの外見を、あえて日本の料理で例えると「梅蘭の焼きそば」が当てはまる。梅蘭のやつほど麺は太くないけど、似てる。「要するにクナーファはこういうことをやってる」を説明するモデルとしては、悪くないと思う。(でもよく考えたら梅蘭は中華料理なんだけど)

クナーファはデザートなので、麺料理ではない。麺料理っぽさで攻める(?)と、「クーゲル」というのがある。麺のテクスチャなら、クナーファよりクーゲルのほうが、梅蘭の焼きそばに似てる(梅蘭が基準になってきてるぞ大丈夫か)。クーゲルは、麺を固めたケーキみたいな食べ物だ。

カットされたクーゲル。ホテルのビュッフェにて。

そんなクーゲルは東欧由来のユダヤ料理。これもこれで、色々種類がある。麺や具材で個性を出して、ラザニア(属性はキャセロール)っぽくするのもあるらしい。材料-条件-によって完成形が変化するこの現象は、敵を吸い込んで変身するカービィを彷彿とさせる。

クーゲルもクナーファも同じ「麺のデザート」なのに、中東と東欧では解釈がぜんぜん違う。料理とはつくづく「現地の制約にのっとり、その場所にあるもので、アイデアを料理する」だ。だったらもう、つきつめると、日本のところてんもクナーファということだなななななんでやねん。

国や地域によってクナーファの完成形は違うが、イスラエルでは、クナーファの属性はパンケーキ(と視た)。シロップ浸けのカダイフ麺をフライパンで焼き固め、チーズをまぶしてさらに焼き、ひっくり返して皿に盛って完成。ケーキみたいに切り分けて食べるのもセットで「正解のクナーファ」。

イスラエルの「正解のクナーファ」の作り方。

クナーファは「イスラエルのデザート」筆頭候補だし、日本でいう「おはぎ」クラスの料理だと思う。でも、今回のカバー画像に採用したクナーファは、イスラエルっぽくなかった(というか中東っぽくない)。イスラエル人に写真を見せたら「ちょっと違うな」と、なりそうな気がする。

今回のクナーファ。(これがおはぎだった世界観で見てほしい)

ネクスト融合イスラエリ・スイーツ

上品なクナーファは、ナタリー・ポートマンの出身地でもあるエルサレムにあるレストラン「The Notre Dame Rooftop Cheese and Wine Restaurant」で食べた。このお店には、北米からキリスト教徒の観光客が多く訪れているらしかった。なんと、メニューはUSドル表記。

「ノートルダムセンター」というホテルの、屋上にあるレストランだ。

イスラム教の聖地「岩のドーム」が見える。(徒歩圏内)

USドル表記のメニュー。

つまりこのクナーファ、おそらくアメリカ人のお眼鏡にかなうようにプレゼンされている。しかも、「パンケーキ化したイスラエルのクナーファ」に「パンケーキのおしゃれ化」が掛かっていて、二重のメイクアップが施されている。中東と北米の、ネクスト融合イスラエリ・スイーツだ。

アップ。

シロップ浸けのカダイフ麺、チーズ、ピスタチオ。そういうフォーマットは一切くずしてない。噛むと「パキパキ・サクサク・モチモチ」が一撃で歯に伝わる。食・感・命! という感じで、美味しかった。たぶん、ナニ人が食べても「こいつ美味いぞ」と感じられる領域の味だと思う。

あとなにより、てっぺんにバニラアイスがのっかってるのが良かった(私は甘い食べ物が嫌いだが「アイスがのかってたら食べたいのに」と思うことは多い。というかアイスが食べたい)。このままこれを、どこか外国のレストランで提供したら、国境も宗教もこえて愛されると思う。

アイス on top。

ちなみにこのクナーファ、名前は「Rooftop Kunafe」だそうだ。「KU」で「ク」と読ませるタイプ。ばかまじめにカタカナにすると「ルーフトップ・クナフェ」となりそうだ。あ、そういえば、クーゲルも「KUgel」だったな。(たまたまだけど)

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