「海外キマグレごはん」の企画説明-おしながき-
「海外キマグレごはん」では、私が海外で食べたごはんを紹介します。日本国外で食べた自炊以外のごはんなら、なんでも紹介したいと思っています。ただし、何を「ごはん」とするかは、その日の気まぐれで決めようと思っています。
そしてこの企画、必ずしも「海外らしいごはん」ばかりではないです。「イスラエルのケバブ」の日もあれば「イスラエルのラーメン」の日もきっとあります。私はイスラエルに住んでいるので、イスラエルで食べた料理の発表は多くなる見込みです。
とはいえ、アメリカのハンバーガー、イタリアのピザ、クロアチアのクロマグロなど、できるだけ多くの国から多岐にわたる料理を紹介したいと考えています。何卒、よろしくおねがいいたします。
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前回の記事「#6 アイルランドのゴルゴンゾーラサンドイッチ」はこちら。「海外キマグレごはん」の記事一覧はこちら。
Sashimi
イスラエルのレストランで「サシミ」は、実はよくあるメニューだ。いちおう日本の「刺身」を意味し、ローマ字で「Sashimi」と表記される。ただし、日本のように「生魚の切り身を醤油で食べる」必要はない。生魚であれば、ソースは何でもよい。日本でいう「魚のカルパッチョ」が、イスラエルの「サシミ」と言える。
「シトラス・サシミ・サーモン」。@Rooftop Mamilla Hotel
「ブリのサシミ」。@Machneyuda(詳細記事)
「地中海のサシミ」@Brut(詳細記事)
カルパッチョ
では「カルパッチョ」はどうなのか。イスラエルでカルパッチョは「生の牛肉を薄くスライスした料理」となる。「円形の薄切り肉で円陣を描くように皿に盛る」もデフォルトだ。このルックスをもって、イスラエルでは「カルパッチョ」とよぶ。「トマトのカルパッチョ」とか「サーモンのカルパッチョ」のような、応用カルパッチョもある。
「サーロイン・カルパッチョ」@Goshen
「トマト・カルパッチョ」@Night Kitchen
「サーモン・カルパッチョ」@Notre Dame Rooftop Wine & Cheese
アテにならない
イスラエルでは、サシミとカルパッチョのプレゼンスはほぼ互角。しかしここに、イタリアの刺身「クルード」がちょっかいを出してくる。クルードはサシミも名乗れるので、知名度において上位交換の「サシミ」をあえてとるフシがある。言い換えると、「クルード」と言い切っているイタ飯屋のクルードは、ホンモノのクルードと言える。
「クルード」と言い切っているイタ飯屋のクルード。@La Repubblica(詳細記事)
食べ物の名前に関して、イスラエルは移民の国(極端に言うと全ての現地料理が外国料理)なので、名前には工夫が必要だ。「だしまき」だと日本人以外が理解できないので「オムレツ」と呼ぶ、のようなことがしょっちゅう起こる。この現象は「縛られない」と解釈できるが「アテにならない」とも言える。良くも悪くも、こういったことが、世界で13番目に幸せなこの国のヒミツにも思える。名前は入り口に過ぎないのだ。
「カルパッチョ」と名付けられた、クルードまたはサシミ。@Tishbi Winery
そうなってくると「名前-価値-の所有権を乗っ取るな」のような、「文化の盗用-cultural appropriation-」がらみの横槍が入りそうだが、みんなが理解できてナンボだから、そこは大目に見るのがイスラエルだ。その「大目」が裏目に出て報われない人がいることはいつも心に留めておきたいが、今はごはんの話なので、オイシイことしか書かない。とにかく、世界最高クラスの幸せを土台に、イスラエルでサシミは広く受け入れられている。
サシミ・カルパッチョ・クルードの亜種「セビーチェ」。@Pavella
ウリブリ
サシミが一般社会に浸透しているイスラエルで最も注目を集めている最強のサシミ、それが今回のカバー画像にもなった、シーフードレストラン「ウリブリ」の「サシミサーモン」である。ウリブリは、イスラエル北部の港町「アッコ」の名店だ。「アッコにウリブリあり」とはよく言ったもので(私が)、まじで予約がとれない。
アッコの様子。
無骨なウリブリの看板。
決して大きなレストランではない。
ウリブリは過去に中東一に輝いたレストランであり、国外メディアがイスラエルのグルメシーンを紹介する際にやたら登場する。「ウリさん」という名物オーナーも有名だ。ところでこの「ウリ/Uri」という名前、日本でも有名なイスラエル人の超能力者「ユリゲラー/Uri Geller」と同じ名前である。ユリゲラーではなく本当はウリゲラー、というのはひとまず置いておいて、イスラエルではユリゲラーよりウリブリの方が有名なのだ。
ドイツ系イスラエル人のウリさん。
「温度」って尊(うま)いんだな
サシミサーモンは、そんなウリブリが冗談抜きでウリにしているメニューだ。ぬくい人肌のサーモンのスライスが、甘い醤油のタレにつかっている。皿の中央には「ワサビシャーベット」が乗っかっている。「生魚の切り身を醤油とわさびで食べる」をしれっと徹底していて、紛れもなく「刺身」を踏襲している。カルパッチョもクルードもセビーチェも、そして「刺身」でさえも、こうはできかったはずだ。
超正統派「サシミ」。
そしてこのサシミサーモン、やはり「ワサビシャーベット」がシビれる。なぜならそれは、サシミの美味しさに「温度」という次元をわかりやすく導入しているからだ。テーブルに届いた時にはもう溶けかかっていて、儚い。そのせいで緊張するから、温度に気が向く。味はもちろんツンとしているが、ほどよく甘い。こんなワサビなら、別途単品オーダーしたい。
ワサビシャーベット。
この料理を口に含んだ瞬間から飲み込むまでの食感を総合すると、「トゥルトゥル」だ。甘い醤油のタレに浸かっているあたりも、心太-ところてん-に近いものがある。ぬくい・やらかいサーモンと、ひえた・はかないシャーベットを同時に食べるもんだから、「温度」って尊(うま)いんだな、ということにも気付かされた。間違いなく「すばらしいマリアージュ」していた。
「サシミは飲み物」「温度は美味しい」
ウリブリのサシミサーモンは、気分だけでなくサシミの解像度までアゲてくる、たぐい稀なる料理だった。「この店から離れたらもうこの体験ができない」という点においても、唯一無二だ。
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