グランパ恋愛日記#2 アジア麺をプレゼント

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自己紹介と、「グランパ恋愛日記」の説明

僕は30代の日本人です。彼氏は60代の米国人です。彼には孫がいるので、正真正銘のグランパです。ぼくたちの雰囲気を有名人で例えるなら、ミュージシャンの「岡崎体育」とアメリカ合衆国国務長官の「マイクポンペオ」がつきあってる、そんな感じです。

「国籍」「人種」「年齢」「性別」などといったカップルの要素のうち、どれか一つでもイレギュラーなら珍しいと言われます。でも僕たちは、全項目でイレギュラー。だからどんなコミュニティに属しても、いつもなんかの理由で浮きます。

そんなぼくたちについて綴ったのが「グランパ恋愛日記」です。

暮らしを記録したり、彼を観察したり、それらの感想を述べたりします。おじいちゃんとおにいさんが2人で暮らすテラスハウスみたいなものでしょうか。観察したいわけじゃないけど、2人きりだからばれちゃう。そんな、カップルのこぼれ話です。



前回の記事「#1 ペペロンチーノを水洗い」はこちら。「グランパ恋愛日記」の記事一覧はこちら

アジア麺

ある日、彼が「アジア麺」を買ってきた。

仕事帰りに立ち寄ったスーパーで見つけて、ハッとして即買いだったそうだ。「どうすれば君が喜ぶかをいつも考えている」と彼は言うから、このアジア麺-Asian Noodle-は、その思想を体現するアイテムに違いなかった。

アジア麺-Asian Noodle-。

しかし僕は「アジア麺」と呼ぶのは気が引ける。なぜなら、それは正式名称ではないからだ。僕は、できるだけ正しい名前で呼びたい。映画の「イントゥ・ザ・ワイルド」でも、そのようなことを言っていたし。しかし正体がわからない限り、手がかりをかき集めて、最寄りのキーワードで強制的に命名するしかない。

「イントゥ・ザ・ワイルド」のワンシーン。

その外見から、麺であることは明らかだった。パッケージを観察すると、(僕たちが暮らすイスラエルの公用語である)ヘブライ語のほかに、「rice」 とか「wok」とか「信」といった文字が目視できた。「きっとアジアの麺だ」と僕は推測した。あるいは、「ライスヌードル」と呼んでよいのかもしれなかった。

「wok」。

アジア麺の正体がライスヌードルとわかったところで、それは何の助けにもならない。なぜなら僕は、ライスヌードルをあまり食べないからだ。仮に食べるとして、他の麺類のストックが底をつきた緊急事態に限る。僕は普段はパスタを食べるし、アジアの麺類に手を出すときは、ソバやソーメンやラーメンに限る。僕はライスヌードルの使い道に明るくない。よって、彼が買ってきたアジア麺は、暗い保存食の棚に直行した。

「信」。

アジア麺は僕へのプレゼントと見せかけて、実は彼が食べたかった……というわけでもない。なぜなら彼は、パスタ以外の麺類が嫌いだからだ。でも彼は、数ある麺類の中から、この家で誰も消費しないライスヌードルだけを選びとった。ソバやソーメンやラーメンといった、いつも僕を喜ばせる麺類を差し置いたばかりか、食の国境すらも飛び越えて。

アジアのどこかを眺める彼を見つめるとき、僕はいつも、間違いなくアメリカを見据えている。だから、欧米人-アメリカン-の彼だからといって、北欧-スカンジナビア-のトリッキーな珍味をプレゼントしたりはない。近所のイケアにお出かけしたときも、没個性的な冷凍食品のミートボール(Köttbullar)を選びとるし、間違ってもエキゾチックなニシンのマスタード漬け(Sill Senap)に手を出したりなんかしない。

イスラエルのイケア。

エイジアン

あの日のアジア麺は、食べ物ではなく、アジア人の僕を喜ばせる社交ツールだった。そこを勘違いしてはいけない。がぅちゃんはアジア人だから、アジア麺をプレゼント。簡単な事だ。日本人-エイジアン-の僕を喜ばせるセレモニーの主役として、アジア麺が抜擢された。ここでアジアという地域や、麺料理の多様性についてとやかく言うのは、社交がわかってない野暮というもの。また、「人が本当に求めているものは何か」という洞察や哲学をする場でもない。そこに「アジア麺」があったことが、唯一の正解なのだ。

アジア麺、贈呈ーー。

〽️僕:アジアの麺を選ぶなら〜ソバやソーメンやラーメンにしといたほうが〜社交も盛り上がった〜

〽️彼:ソバやソーメンやラーメン〜ぜんぶアジアの麺〜どう違うの〜

そういう次元*は僕にとっては懐かしくて、彼のおかげで、また笑顔が増えた。

*そういう次元の思い出*

アジア麺のノスタルジーは、僕の心を高校時代に巻き戻した。当時の僕は、イギリスの田舎でホームステイしていた。ホストファミリーはちゃきちゃきの英国人労働階級の老夫婦で、気をぬくと今にも差別用語が口から滑りおちてきそうな、肩の力や歯が抜けてリラックスしたムードの家庭だった。

彼らがパーティに出かけた夜のことだ。たった一度、その時だけ、アジア料理が食卓に並んだ。彼らがデリバリーを用意してくれていたのだ。エビチリ(?)とカレーと黄色い米のプレートの横に、グリーンピースが混ざった白米のボウルが添えられていた。

いつも通り、フォークとナイフで食べる。

わけのわからないアジア人の僕に、わけもわからずこんなにしてくれるなんて。日本では、家族も友達もこんなことしてくれなかったので、手厚くもてなされた僕は、高揚した。

アジアから来た君に、アジアのごちそうをプレゼントだ。

次の記事「#3 歳をとってごめんなさい」はこちら

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