コーシャの解説&本場イスラエルのコーシャ料理の紹介

イスラエルのテルアビブに住んでいます、がぅちゃんです。

イスラエルの「コーシャ刺身(関連記事)」。@マミラホテル/エルサレム

コーシャとは? カシュルートとは? 禁止食材とは? ……といったコーシャの基本について解説します。現在のイスラエルにおけるコーシャ料理の実態についても解説し、現地のコーシャレストランと併せて紹介します。

もくじ

1ページ目:コーシャとは?

・カシュルートについて
・コーシャ食品の分類は3つ
・13のNG

2ページ目:イスラエルのコーシャ料理

・コーシャ料理=ユダヤ料理?
・コーシャを実践するユダヤ人の割合
・コーシャはマイナー
・現代のイスラエルのコーシャ料理

コーシャとは?

コーシャとは、ユダヤ教の食のルール「カシュルート/Kashrut」が定める、ユダヤ教徒が食べてよい食べ物のことです。コーシャは英語で「Kosher」と綴り、日本語では「カーシェール」「コーシェル」「カシェル」などと表記されます。

コーシャはヘブライ語では「כשר」と綴り、発音をカタカナで表記すると「カシェル」「コシェル」のようになります。現代のイスラエルでは、コーシャ食品やそれを取り扱う飲食店で、「כשר」や「Kosher」という表記が使われています。 

「Kosher」と英語で表示された、テルアビブのカフェ。

コーシャという言葉の意味は複数あり、「正しい」「適切」「Fit」「Clean」「Pure」などが含まれます。つまり「コーシャ食品」とは、ユダヤ教徒にとっての「適正食品」と言えます。

「カシュルート」について

カシュルートは、厳密には、「ユダヤ法/Halakha」における食に関する規定です。複雑なことで有名です。 食品がコーシャかどうかを精査する機関は「コーシャ認定機関/Kosher Certification Agency」と呼ばれ、世界中に存在します。 

テルアビブのファストフード店のコーシャ認定証。デザインはさまざま。

カシュルートにおいて、コーシャとなるための最も基本的な条件は3つ:「1. コーシャ動物であること」「2. シェヒーターで処理すること」「3. 肉と乳製品の分離」。それぞれの内容は以下の通り。

1. コーシャ動物であること:コーシャ動物とは、条件を満たした「哺乳類」「鳥」「魚」です。

2. シェヒーターで処理すること:「シェヒーター/Shechita」とは、特別なナイフ(Sakin/Chalaf)を用いた特別な屠殺方法です。

3. 肉と乳製品の分離:肉と乳製品は一緒に食べてはいけません。「食材」「調理器具」「食器」など、何もかも分離して別々に扱います。

※それぞれの細かい条件は「13のNG」で後述

コーシャ食品の分類は3つ

晴れてコーシャと認定されれば、公式に「コーシャ」を名乗れます。その証がコーシャ認定証です。コーシャとして分類される食品には大きく3種類:「肉製品」「乳製品」「パルバ/Pareve/Parve」です。

「パルバ」と書かれた植物性ホイップクリームスプレーの缶。

パルバには「中立」という意味があり、肉と乳製品以外のコーシャ食品のことです。魚、卵、フルーツ、穀物などが含まれます。つまりコーシャ食品とは、「コーシャ肉製品」「コーシャ乳製品」「その他パルバ」という捉え方。

スポーツジムで普通に売られている、コーシャ・プロテイン。(=コーシャ乳製品)

成分表に「コーシャ」と書かれている。(左のマーク)

13のNG

カシュルートにおける、代表的な禁止食材や禁止事項をまとめました。コーシャと見做されない条件の一覧です。「哺乳類のなかでも、食べていいやつ&わるいやつ」といった詳細についても説明します。

1. コーシャ動物じゃない生物

「哺乳類」「鳥」「魚」以外の生物のことです。無脊椎動物・爬虫類・両生類はコーシャ動物として認められません。つまり、クラゲとか虫とか蛇とかカエルとかは、食べてはいけません(バッタは例外的にOK)。

「哺乳類」「鳥」「魚」の中にそれぞれ、非コーシャ動物に該当する条件があります。哺乳類は、「分趾蹄/Cloven Hoofと反芻の、両方の性質を持つ哺乳類」以外の哺乳類。あとは、「ヒレとウロコが無い魚」「肉食の鳥(猛禽類)」です。

イルカは「ヒレとウロコが無い魚」と見做される。@ドルフィンリーフ/エイラート

NG生物の例:ブタ、ウサギ、ラクダ、ウマ、コウモリ、ハイラックス、貝類、甲殻類、ウニ、ナマコ、クラゲ、ウナギ、ナマズ、アナゴ、ウツボ、フグ、アンコウ、カジキマグロ、サメ、クジラ、イルカ、ワシ、フクロウ、虫、ワニ、カメ……etc。

2. シェヒーターで処理されてない肉

「シェヒーター/Shechita」はカシュルートの屠殺方法で、「特別なナイフで、正しい切り方で切る」といった内容。ナイフは「Sakin」「Chalaf」と呼ばれ、NGの切り方が5つあります。なお、ユダヤ人以外が処理するのもNGとされています。

ヨーロッパの食肉処理工場での、シェヒーターの様子。

3. 不適切な肉

要するに不良品のことで、「Terefah」と呼ばれます。「著しく破損したり、大きなケガをしている動物の肉」は取り扱ってはいけないという内容。「肉食動物による切り傷がある」など、不適切と診断される症状は8つあります。

4. 血

血の摂取がNGなので、肉は塩を使って徹底的に血抜きされます。日本発祥の処理方法「Ikejime/活け締め」と比較されることもあります。完全に余談ですが、「すっぽんの生き血」とかは絶対にNGです(そもそもカメがNG)。

5. 脂肪(スエット)

「スエット/Suet」は、牛や羊の腎臓付近の脂肪のこと。カシュルートでは「Chelev」と呼ばれます。「ニクー/Nikkur」というテクニックで取り除かれる必要があります。牛脂はスエットから作られるので、すきやきの際には要注意です。

ニクーを実践するユダヤ教徒。

6. 坐骨神経(Gid Hanasheh)

下半身の神経です。この部分をわざわざ食べることもないのですが、「旧約聖書によるとヤコブが天使との戦い(=天使とヤコブの闘い)で傷つけられた神経だから食べない」という理由。これも「ニクー」を駆使して取り除かれる必要があります。

「天使とヤコブの闘い」は、絵画の題材として有名。画像はレンブラントの作品。Image:CC0

7. 生きている生物の手足

生きている状態の動物から切り分けた手足は、食べてはいけないことになっています。だからコーシャ動物は、まず始めにシェヒーターで確実に殺されてから処理されます。ちなみに、「魚の活け造り」もNGです。

8. お供えが済んでいない食べ物

ユダヤ教では、農作物の10%は神のものとされています。これは「Tithe」と呼ばれる概念で、 日本語で「十分の一税」と訳されます。収入の十分の一を税として納めるという考え方で、お供え物に近いです。(ユダヤ教以外もTitheはある)

9. 3年経っていない果物

植えてからまだ3年経っていない果物は「Orlah Fruit」と呼ばれます。「Orlah」は「Uncircumcised」とも表記され、 日本語だと「割礼を受けていない/隠された/封じられた」という意味があります。男性器の包皮も「Orlah」です。

10. 若い穀物

植えたての穀物は食べてはいけません。「Chadash」という概念です。「植えたて」とは、前年の「ペサハ/Passover」の後に植えられて、今年のペサハを迎えていない穀物を指します。 ペサハとは、ユダヤ暦の正月のような期間です。

ペサハの晩餐「セーデル」の様子。@テルアビブ・ゲイセンター。

セーデルを描いたとも言われる、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」。Image:CC0

11. 献酒のワイン(Yayin Nesekh)

神へのお供え物としてのワイン(献酒)はNGです。偶像崇拝に関連したワインはコーシャではないとされています。「偶像を信じる人によって注がれたワイン」や「 ユダヤ人以外が生産したワイン」も、原則、コーシャのワインとして認められません。

12. 異種が混ざって育った植物

そもそも、混ざることに関する禁忌が存在します。「Kil’ayim」と呼ばれ、「異種交配」「リネンとウールの同時着用」なども含みます。ブドウの近くで他の植物を育てるのもNGとされます。つまり、草むしりを怠った野菜はNGということになります。

13. 肉製品と乳製品の混合

これはかなり有名なNGです。胃の中で混ざることもNGなので、肉製品と乳製品を摂取する場合は時間をあけます。どれくらい時間をあけるかは、個人によると言われています。 チーズバーガーやペパロニピザはNGです。

13のNGのまとめ

1. コーシャ動物じゃない生物
2. シェヒーターで処理されてない肉
3. 不適切な肉
4. 血
5. 脂肪(スエット)
6. 坐骨神経(Gid Hanasheh)
7. 生きている生物の手足
8. お供えが済んでいない食べ物
9. 3年経っていない果物
10. 若い穀物
11. 献酒のワイン(Yayin Nesekh)
12. 異種が混ざって育った植物
13. 肉製品と乳製品の混合

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