「海外キマグレごはん」の企画説明-おしながき-
「海外キマグレごはん」では、私が海外で食べたごはんを紹介します。日本国外で食べた自炊以外のごはんなら、なんでも紹介したいと思っています。ただし、何を「ごはん」とするかは、その日の気まぐれで決めようと思っています。
そしてこの企画、必ずしも「海外らしいごはん」ばかりではないです。「イスラエルのケバブ」の日もあれば「イスラエルのラーメン」の日もきっとあります。私はイスラエルに住んでいるので、イスラエルで食べた料理の発表は多くなる見込みです。
とはいえ、アメリカのハンバーガー、イタリアのピザ、クロアチアのクロマグロなど、できるだけ多くの国から多岐にわたる料理を紹介したいと考えています。何卒、よろしくおねがいいたします。
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前回の記事「#3 イスラエルのカリフラワーロースト」はこちら。「海外キマグレごはん」の記事一覧はこちら。
イマドキのアメリカ
このカツ丼は、アメリカの首都「ワシントンD.C.」のダウンタウンにある「ドンブリ/Donburi」というお店で食べた。店名でも言い切っているように、「Donburi」は日本料理の「丼もの」を主戦力としている。よくある「海外の日本料理屋」としてではなく、現代的なアメリカの「ファストカジュアル」の飲食店としてだ。
ファストカジュアル(Fast casual)とは、ファストフードとファミリーレストランの中間の新業態で、2000年代以降のアメリカ合衆国内の外食業界では一番伸びている業態(Wikipediaより) だそうだ。典型的なファストカジュアルの例としては、ハンバーガーチェーンのシェイクシャックや、メキシカングリルのチポトレが挙げられる。
要するにDonburiは、イマドキのアメリカの飲食店というわけだ。
「Donburi」の外観。一階はヘアサロン。
「丼もの」に全ベット
そんなDonburiのお品書きは、サイドメニュー以外はどれも1,000円〜といった価格で、例のカツ丼は11ドル/1,210円。日本の吉野家などと比べれば高額だが、アメリカの首都の飲食店としてはまずまずの値段だ。ワシントンD.C.は、文化指数や教育水準が高めな米国人が集まる都市だから(私の勝手な印象)、アメリカではマイナーな「丼もの」に全ベットしてもやっていける文化的土壌-チャンス-があるのかもしれない。
Donburiのメニュー。読解には日本料理の知識がいりそうだ。
「Donburi」という名前からして実はすでに匂っていたが、このお店には「待ってました感」のような希望がある。この興奮を(私が暮らすイスラエルで)例えるならば、「セニヤケバブ*専門店、はじめました」のようなことだ。「え、セニヤだけで!?」という、今まで語られてこなかったけれど確実に存在していた潜在的食欲-ニーズ-が刺激される。簡単に言うと、トレンドが前進しているのだ。Donburiの存在は、地元のエイジアンアメリカンには、きっと朗報だと思う。
(*セニヤケバブはイスラエルによくあるケバブの一種で、ハンバーガーのパテのような平たいミンチ肉に、ゴマペーストのタヒーニをかけて、オーブンで焼く料理。)
セニヤケバブ。
フィル・テイラーが、勝つのが当然になっている状態くらいすごい。
Donburiのカツ丼を食べてみると、自炊したカツ丼が大成功だったときの感動が味わえた。自炊だと、気まぐれでクミンなどのワクワクしたスパイスを加えてしまう可能性があり、大成功は保証できない。だから「大成功のカツ丼」が量産されるというのは、すごいことだと思う。スポーツで例えるならば、レスリング選手の吉田沙保里や、ダーツプレイヤーのフィル・テイラーが、勝つのが当然になっている状態くらいすごい。
フィル・テイラーはハズさない。
ただし卵に関しては、日本のものと比べて量が少なく、焼き加減はウェルダンだった。これはアメリカの卵料理の既成概念に関係している気がする。日本では卵料理を半熟にすると評価が高まる傾向があるが、アメリカではその逆があると聞く。(あくまでも一部の)アメリカ人にとっての「半熟のオムレツ」は、日本人にとっての「焼けてないお好み焼き」くらい違和感があることなのかもしれない。
アメリカの典型的なオムレツ。「卵の生地で具を包む」という考え方。
カツ丼の感想としてはそれくらいだ。サイドメニューの唐揚げに関しては、あまり覚えていない。ただし「覚えていない」というのは、「特に優れていなかったけれど、劣ってもいなかった」ということだ。そつが無い故、ひっかからず、かなしいかな(別に悲しくはないけれど)、印象に残らない。それでもDonburiは、「異議なき昼食を過ごせた希望の地」として、強く印象に残っている。その安心感でもって、リピートは確定だ。
唐揚げ。6ドル/660円。
MVPを決めるなら、「イギリス最強のスポーツ選手10人」に選ばれたフィル・テイラーを差しおいてでも、Donburiの「飲み放題の冷たい麦茶」を推したい。なぜならそれは、アメリカでは特別な存在だからだ。「無糖の冷えたお茶を水みたいにグビグビ飲む」という日本の飲み方は、この国では当たり前ではないらしい。そしてなにより、冷たいお茶をこうやって飲むのは、私の海外生活で真っ先に失われた、ささやかな日本文化ひとつだったから。(私はアメリカに住んでいないけれど)
飲み放題の冷たい麦茶。
クールなお茶は、甘くないんだぜ〜