ドイツで一羽のうさぎをさばいて六品のうさぎ料理を作る

ドイツのベルリンに住んでいました、がぅちゃんです。

ドイツによくいる野生のうさぎ。ベルリンの有名な公園「ティアガルデン/Tiergarten」にて。

当時通っていたベルリンのスーパーの精肉コーナーでうさぎが一羽まるごと売られていたので、買って捌いて6品のうさぎ料理を作りました。料理を通して、うさぎの最大の特徴は耳でも脚でもないことを学びます。

※この記事は、脳内トラベルメディア・世界新聞にて発表した記事をリライトしたものです。オリジナル版タイトル:スーパーでウサギを一頭買いしてみた【前編】、スーパーでウサギを一頭買いしてみた【後編】

スーパーの精肉コーナーで売られていたうさぎ

こちらは当時よくお世話になった大型スーパーのチェーン「メトロ」。ドイツのコストコとも言われていて、買いだめ目的の客も多くやってくるお店です。

セールのコーナーの棚には「イノシシのシチューの缶詰め」なんて売られていて、ドイツらしいと言えばドイツらしい品揃え。

缶詰めに書かれたドイツ語をあえて訳すと、「wild=野生の」「schwein=ブタ」「ragout=ラグー」。(イノシシって野生のブタだったのか!) 

下の棚に早速うさぎ! …のロゴの、プレイボーイのデオドラント。耳で一発でうさぎと気付かせてくれるのがすごいところ。やるね。

ところで、うさぎの「羽/わ」という独特のカウント方法の由来は、「耳が羽みたいだったから束ねて数えた」説が可能性としてあるそうです(確証は無いらしい)。それだけ耳がトレードマークということでしょう。

では道草はこの辺で…

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精肉コーナーへ

ここだけでコンビニが営業できそうなスペースの精肉コーナー。牛、ブタ、ラム、鹿、ガチョウなど、様々な動物の色々な部位の肉が売られています。

普段から(自分にとっては)珍しい肉が売られているとはいえ、いつもは見ない、秋刀魚のようにやけに長いパッケージを発見。「なに肉? どこ肉??」と困惑したのを覚えています。

パッケージに貼られた黒いラベルに、イラストでその正体が描かれています。

もしやその耳!(秋が旬とは聞いていたが、これが噂の…) 近所に住んでいると噂の有名人を目撃したような興奮を覚えました。

(今の家の)近所に住んでいると噂のイスラエルのスター「ネッタ・バルジライ」。日曜日の朝に一度だけ見た。

ネッタの新曲「バッササババ」

まだ半信半疑でパッケージの表記を確認してみると「KANINCHEN=うさぎ」「GANZ=まるごと」「FRISCH=フレッシュ」と確かに書かれています。一羽丸ごと、うさぎのフレッシュパックです。

メトロのうさぎは一羽1.448キロで15.62ユーロ(約2,100円)。コーラやプロテインのボトルに挟まれ、うさぎがでーんとカートに横たわる独特の光景。

キッチンでうさぎを観察する

うさぎを買ったのは初めてのことだったので、家のキッチンでじっくり眺めてみることに。長いだけかと思っていたら、ボリュームもそこそこあります。ちなみにコーラは1.5リットルなので、重量はほぼ同じ

特に殿部はしっかりしていて、ふとももの幅が腰のウエストとほぼ同じ。(そりゃ毎日ウサギ跳びしていたらこんなになりますわな〜)

ところでチャーミングなあの耳は、すでにカットされていました。これをもってして「一羽」と呼ばれたトレードマークも、食用だと無価値という新事実。キッチンで完全に「一頭」となるうさぎ。

観察することによって湧き起こってしまった「キッチンに動物がいる」という感覚。正直この時点では、うさぎをまだ食料として見られない自分がいました。(そういえば魚や肉をコーラと比べたことなんて無かった)

うさぎを即興でさばいてみる

「即興で」というのも、このとき自分は、調理法を知らずにうさぎを衝動買いしていました。キッチンで自分の無謀さをやや後悔しつつ、でもさばかないとどうにもならないので、YouTubeのお手本の見よう見まねでやってみることに。

動画ではサクサクとカットしていてラクチンな作業に見える。

持ち上げると関節ごとに重心が移り、妙にずっしりくる独特のウェイト。数字ではコーラより軽いとわかっているが故に重力を疑いたくなる重さ。関節に命が宿ってんのか? ナイフを握りしめた覚悟が鈍ります。

裏返すと内蔵がまだ付いていました。いよいよ手に負えないかもとリタイアしかけましたが、タダでレバーが手に入ったとかいうふうに自分をごまかして手を進めます。

途中で手を止めるともう進めなくなると感じていたので、一気にさばききりました。サクサク切っていたお手本とは違って関節を狙って削って切断するような作業となってしまい、「うさぎの関節にはいいナイフを」という明日使えなさそうなトリビアが誕生した瞬間でもあります。

さばいたうさぎを細分化

捌いたうさぎを上から見るとこんな感じです。もも、背中、胴、肩、頭の5つの部位に分けました。

調理しやすくするために、ももと背中の2つをさらに細分化します。背中の肉のカットが特に難しく、可食部分を壊さずに背骨から分離するのに手こずりました。

スーパーの食肉がこういったプロセスを経て店頭に並んでいるのを身を以て理解し、「こういったことにお金を払っていたんだな」と感慨深いものがありました。プロの人たち、普段仕事してくれて本当にありがとう。

5つの部位から6品のうさぎ料理に

もも、背中、胴、肩、頭の5つの部位から、6品の料理を作ってみました。煮物、揚げ物、焼き物の3通りの調理法で取り組みます。

 

おしながき

ももの部位より:「フライドうさぎ」と「うさぎのからあげ」
背中の部位より:「うさぎステーキ」と「うさぎボール」
その他(胴&頭)の部位より:「うさぎ汁」
肩の部位より:「うさぎ焼・手羽先風」

ここからは、美味しかった順にランキング形式で紹介していきます。

1位 うさぎ汁/胴&頭

胴と頭を、ニンニク・タマネギ・水と一緒に鍋で軽く煮込み、みそ汁にして味わいました。

魚の頭だと気にならないのに、それがうさぎだとためらってしまう自分が悔しかったですが、飲めばなかなか美味でした。嫌な風味はなく、肉々しいみそ汁という味。このダシで鍋にシフトできたなら旨味のコンボが決まりそうです。

講評:いつだか読んだ美味しいラーメンの作り方に「肉と骨を一緒に茹でろ」と書かれていたのを「そういうことか」と思い出します。「兎骨ラーメン」なんてあっても美味しいだろうなと夢が膨らむ味でした。美味しさ10点満点プラス伸びしろボーナスで、合わせて20点!

得点:★★★★★★★★★★(+★★★★★★★★★★)

2位 フライドうさぎ/もも

手順は至って普通です。小麦粉→卵→パン粉の順番でうさぎにまぶし、油で揚げます。ただし、日本のパン粉が無かったので、ドイツの定番揚げ物「シュニッツェル」用のパン粉で代用しました。

結果として奇跡的に、なんだか格式のあるドイツ料理のような一品になりました。シュニッツェルらしいザクザク寄りのサクサク感。身がぎっしりした巨大なササミにかぶりつくような格好で、食べ応えも申し分なし。

講評:文句がないので10点満点です。ところで、うさぎのシュニッツェルはドイツで実際に存在するメニューだそうです。本来は肉をもっと薄く伸ばして揚げるようです。

得点:★★★★★★★★★★

3位 うさぎのからあげ/もも

違うパターンの揚げ物にも挑戦。さっき細分化した3切のももを、醤油とみりんにつけてから片栗粉をまぶし、あとは揚げるだけ。そのまんまからあげです。(うさぎの持つ鶏肉感に期待)

鶏ほどプリプリの食感ではないですが、​風味がからあげで無難に美味しかったです。ひとくちサイズにカットしたことで面積あたりの油の量が増え、ジューシーさがアップしました。肉が硬めなのが吉と出て型崩れせず、小さいながらも高温の調理に耐えました。

講評:シュニッツェルのひとくちが1点だとして、すでにひとくちサイズのからあげは1つ3点です。ただし、ひとくちが10回は続くシュニッツェルに総合得点では敵いません。こちらがウサギなら、あちらはカメといったところ。油断大敵です。

得点:★★★★★★★★★☆

4位 うさぎステーキ/背中

苦労して切り分けたうさぎの背中の肉のひとつです。牛でいうフィレにあたる部位ということで、塩・胡椒のみのシンプルな味付けで焼き、ステーキにしました。食あたりが怖かったので、焼き加減はミディアムウェル(一番焼くやつの一歩手前)で調理しました。

独特の柔らかさでした(今考えると6つの中で一番繊細だったような…)。ぎっしりとはまた違って、密度が高くてくにゅっとするササミみたいな食感でした。全メニューの中で最もシンプルな調理法だったためか、獣のような風味があったようにも感じましたが、とくに気になるものではありませんでした。

講評:10人中6人は美味しいと言いそうなクオリティだったので、7人目の私から7点を差し上げます。

得点:★★★★★★★☆☆☆

5位 うさぎ焼・手羽先風/肩

厳密には肩から手首までまるごとです(手のひらは最初からカットされていた)。鶏の手羽先をイメージして、ごま油とソースで和風に調理してみました。

身と骨の割合が半々で今までのような肉々しい食べごたえは無かったですが、ほぐせばおつまみにちょうどいい感じです。華奢な肉をやきもきしながらついばむうちに「うさぎは脚の生き物なんだなぁ」ということを実感します。

講評:5点。うさぎ=「耳<脚」。
得点:★★★★★☆☆☆☆☆

6位 うさぎボール/背中

背中から2つに切り分けた肉のひとつ(うさぎステーキと同じ肉)をすりつぶし、ハーブ、卵、小麦粉とともに混ぜて焼きました。

見た目は美味しそうに見えたのですが、この時の自分の味覚とセンスで順位をつけるならば問答無用で最下位でした。というより、個性の塊なのでジャッジしかねるといったほうが適切です。でも、さっきのうさぎステーキと同じ肉のはずなのに、なんで?

調べてみたところ、うさぎの肉は粘着質が高いので(そう言えばうさぎステーキには妙な「くにゅっと感」があった)、その特性が注目されてソーセージなどの結着剤(meat glueなどと呼ばれる)として使われることがあるそうです。

つまり、うさぎボールはつなぎの塊なので、それだけを食べるには適していない料理と言えます。でも逆の見方をすれば、ボール状にこねるとうさぎのポテンシャルが最大限に引き出されるとも言えるわけです。

講評:0点。ただし、美味しくなかったのはうさぎではなくて自分の調理法のせいだとフォローしておきます。すでにつなぎのうさぎの背中に、さらにつなぎの小麦粉を加えた私の責任です。小麦粉なしで固まれるというのは才能と呼ぶほかありません。うさぎ=「耳<脚<糊」。新たな出会いに、評価に代わってラブを差し上げたいと思います。

得点:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(+❤︎)

総評:うさぎは食肉としてアリかナシか?

1~5 位まではどれも僅差で美味しく、食肉として大アリだと思います(そもそも実際に食べられているわけですし)。でも個人的には脂っこいのが好きなので、脂肪が少ないうさぎをわざわざ選んで食べたいとは思わないかもです。ただし「ささみよりぐんとサッパリした肉はないか?」と探している方にはおしえてあげたいです。

ランキングという建前、ぶっちぎり最下位となったうさぎボールですが、そうなった理由でもある「粘着性」こそが食肉としてのうさぎの最大の魅力であることは肝に命じておこうと思います。「でかい耳」や「はねる脚」といった外見的特徴からは全く予想できなかった新事実で、もう目からうさぎが落ちる気分でした。

もしハンバーグなどを作る場合、小麦粉の代わりにうさぎを混ぜると、粉っぽくならず凝固する上に肉質アップの予感です。うさぎは「肉味の糊」として、今後キッチンではねるでしょう。「二兎を追う者は…」なんて言いますが、六兎を追ったら、最後の一兎がまさかのゲームチェンジャーでした。

公園でも跳ねるうさぎ。

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