読書感想文「結婚の奴/能町みね子」

〜「結婚の奴」の概要〜

“第一声は「ただいま」なんだろうと考えた――ゲイの夫(仮)と、恋愛でも友情でもない二人の暮らしをつくるまでのつれづれ。”  平凡社HPより。

読書感想文、気軽にかいてみよっ。

…と、書く前はポップな心構えだったよ。でもいざ書き出すと、ばかまじめに構えてしまった。あ、むずいな…と。こうしてもわっとホケンをかけたところで、ずけずけ感想を述べていく。「能町みね子さんの結婚の奴、読了。」というヤツをやってみたかったので、まずはそれができて嬉しい。

「結婚の奴」、好きか嫌いかだと、間違いなく好きのほう。 文中の「、」の位置とか、そうゆうしょうもない(しょうもなくないけど)とこからえんえん好きだし、称賛は永遠に続きそう。ひとまずおいらのマインドセットは、おもろい前提で、この本を紹介したがってる。(たのしくてついいきッちゃう)

おもろいとこを羅列しだすとキリがないので、「どっかでこの本を推薦する機会があれば、ひとまずこの定型文でプレゼンするかな…」な内容でまとめてみた。

もくじ

目次がかわいい
白鵬の立ち合い
表現がおもろい
ぶっとんだ表現
お気に入り物体
理解不能なモノ
その他もろもろ

目次がかわいい

「結婚の奴」の目次は、すべて七文字のカタカナで統一されている。「ジェラートピケ」「エクストレイル」「クッキーシーン」といった具合。内容どうこうの前に、目次のビジュアルに愛着が湧き、未読の状態でも好ましかった。あと、ジェラートピケかわいい。

イスラエルで暮らしてた私にも、「ジェラートピケかわいい」というたれこみはネトフリのテラスハウス経由で届いてて、そのアンテナに引っかかっちゃった。能町みね子さん、ジェラートピケ着んにゃ。。いかつい人と思いこんでたけど、かわいい人やねんな(ˊo̴̶̷̤ ̫ o̴̶̷̤ˋ)と、素敵な予感がした。

白鵬の立ち合い

「かわいい」でぞんぶんにフッておきながら(そういう意図かは知らないけど)、一行目で「水状のウンコ」をもらし、四行目で「白鵬の立ち合いのスピード」がさく裂する。私は白鵬について詳しくないけど、水状のウンコのおかげで、ぶりぶり気持ちよくストーリーについていけた。

「白鵬の立ち合いのスピード」、しらねーw というのが本音だったけど、「能町みね子さんは相撲が好き」というのは知ってたし、私は高校で相撲部に所属してたし(一ヶ月)、当時の部員が見せてくれた白鵬とのツーショット写真など思い出し、「とりあえずすごそうではあるな」と納得できた。

でも実際にどうなのかが気になって「白鵬の立ち合いのスピード」を検索してみたところ、NHKのサイトで「全力士最速」と科学的に証明されてて、笑った。けっこう目からウロコ。白鵬は「秒速2.138m」らしい。「192cmのスピードスター横綱」と命名されていた。この一連のすべてが、かわいい。

「白鵬の立ち合いのスピード」→「知らんw」→「どれどれ……」→「いや早いんかいW」という、読者の私が勝手にやらされた喜承転結-スピンオフ-までたのしい。(まだ四行しか読んでないのに!)しかも出会い頭に一発、うんこまでくらってる。能町みね子さんもたいがいのスピードスター。

作中の後半で、能町みね子さんが横綱級にいかれるシーンがある。そこでふたたび白鵬が文章入りしてキレた仕事をするのだけど、これ以上はネタバレだし言えない。

表現がおもろい

「表現がおもろい」という表現がおもろいかどうかはさておき、「結婚の奴」は、最初から最後まで(つまりどこを読んでも)コンスタントにおもろい。能町みね子さんの、脳のスタミナを感じる。絶対咀嚼感。万象を咀嚼しつづけてる…というか、もうかみまくってて何いってるかちょっとわからんときすらある。

推敲とかしてて爆誕-アップグレード-しはったんかな、と思える表現もあった(最初からふってたとか色々あるだろうけど)。例えば、うんこのくだりの「括約筋が活躍」という表現。とんちが素敵だし、内容もヌルッと入ってきた。あとこれ、個人的に共感必至な表現でもあった。

なぜなら私も、アナルに関して「括約」と「活躍」を掛けて表現したことがあったから。この記事で「フィストファックはアナルを酷使する」の意で「バックでの括約が期待される」と書いた。アナルの扱いがたまたまにてて、能町みね子さんに不思議な親近感が湧いた。

「結婚の奴」に登場するMYフェイバリット表現を枚挙しだしたら、まじでイトマが無くなる。「腰を低くしながらも押しは強め」「自分の精神性の形状記憶ぶり」「ホカホカのアキラ」「撒き餌を書きつける」「やー、よいしょー、とか言いながら腰かけた。」「素直に感情を大声で発表」……etc。

日本語の独自ブレンドだったり、理屈抜きで愛くるしいフレーズだったり。。好きな理由はいっぱいある。一つ明確なのは、どの表現も、ともすれば独りよがりな個人的解釈のはずなのに万人に通じる言語化が施されていて、感動した。かわいくなんかない。徹底してオリジナルで、言葉が必然性を帯びてて、やはりいかつい。

ぶっとんだ表現

「能町みね子さん」のことを「みねこ……!」といきッて敬愛したくなるくらい、私の興奮が爆上がりした瞬間(表現)がなんこかあった。一つピックアップすると、「クッキーシーン」の章に登場した「雌伏」という言葉。その文脈において最高にキマってて、私がぶっとばされた。カニエウェストよりしぶい。

「雌伏/しふく」とは「すごく待たされる」みたいな意味らしいが、読んでるこっちは「女が屈伏する様子」とか想像させられたし、「至福」と読めばロマンチックな妄想の余地もあったし、かといってどれも意味してないアンニュイさも漂ったりとかで、リッチな一言だった。あじわいが本当にふかい。

爆上がりまでいかずとも、ハッとさせられる”程度”なら、全編を通してようけあった。ぶりぶり気分良く読んでたら、生っぽい(?)言葉がとつじょ現れて、不意打ちでドキッとなる。街で奇天烈な人と目があってゾッ…、そんな緊張感。例えば「苦笑いが出ちゃうよね、」とか…、そういう口調のことやぞ。

お気に入り物体

新岩淵水門」という物体が作中に何回か登場する。能町みね子さんは、それをやたらと愛でている様子。私は「新岩淵水門」なんて見たことも聞いたこともなかったし、初見では読むことさえできなかった。でも作者がいいふうに言ってるぽいから、「じゃあ新岩淵水門いい奴」と判断した。

見たことも会ったこともネー奴に対してなぜそうやって決めつけたかというと、べつに奴を知らなくても、奴を愛でる表現を愛でることができたから。いざ「新岩淵水門」をググって見ると、くやしいかな、かわいくないとは言えネー。「これまた気に入った。」っていう、文中の表現にAIRイイネしておいた。奴は書き手に恵まれてた。

理解不能なモノ

行ったことない場所や見たことないモノが作中に出現しても、文章のおかげで読解できた。でも、一つだけ理解できないモノがあった。それが、東京の大井町駅のペデストリアンデッキ。「エクセシオール」という章に登場するんだけど、私の中では「ペ…デストリアンデッ…キ?」な章だった。

ペデストリアンデッキの描写を慎重に追いつつ脳内レンダリングを試みるんだけど、途中で映像がバグる。辻褄が合わなくなる。(シテ…コロシテ……) どうやらペデストリアンデッキは私の解像度を完全に超えてるらしくて、根本的な何かを理解できてないことを悟った。お手上げだった。新岩淵水門の奴とはひとあじ違う。

ググって見ると納得の構造。想像どおり、ソーゾーとぜんぜん違った。ただし(私にとって)理解不能なモノが文中に登場しても突き放される感覚は無くて、むしろ逆に接近して関心が持てた。おかげで次回の日本旅行のいき先が増えて、楽しみ。能町みね子さんトリプルおおきに、と言いたい。

その他もろもろ

序盤の白鵬のようなかんじで「七○年代の少女漫画」という例えが登場する。私にとって未知の領域なので、これまた興味がわくわく。調べてみると、「アタックNo.1」とか「ベルサイユのばら」とかのことらしい(聞いたことあるやつだ)。例えがわからないのにわかっちゃう、このかんじ。

「うんこ次郎」と「意思強ナツ子」については、その字面に心を掴まれた。そして最後に、作中で同業者としても語られる作家の雨宮まみさんについては、本人にも作品にも興味を持った。彼女に関する文章は、作中で最もぜいたくな類だったと思う。この本のさいごのページを見ても、別格のところにいてはった。

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