「海外キマグレごはん」の企画説明-おしながき-
「海外キマグレごはん」では、私が海外で食べたごはんを紹介します。日本国外で食べた自炊以外のごはんなら、なんでも紹介したいと思っています。ただし、何を「ごはん」とするかは、その日の気まぐれで決めようと思っています。
そしてこの企画、必ずしも「海外らしいごはん」ばかりではないです。「イスラエルのケバブ」の日もあれば「イスラエルのラーメン」の日もきっとあります。私はイスラエルに住んでいるので、イスラエルで食べた料理の発表は多くなる見込みです。
とはいえ、アメリカのハンバーガー、イタリアのピザ、クロアチアのクロマグロなど、できるだけ多くの国から多岐にわたる料理を紹介したいと考えています。何卒、よろしくおねがいいたします。
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前回の記事「#10(番外編)美味い店を見抜くための4項目」はこちら。「海外キマグレごはん」の記事一覧はこちら。
アドリア海
スタジオジブリの映画に「紅の豚」というのがある。1992年の公開当時、日本のアニメ映画における興行成績の最高記録を塗り替えた作品だ。作中では、クレナイ色の飛行機に乗ったブタが、イタリア半島とバルカン半島に挟まれた「アドリア海」を飛び回る。
アドリア海のバルカン半島側に、クロアチアという国がある。アドリア海に面したエリアが「ダルマチア地方」と呼ばれている。ディズニーの「101匹わんちゃん」でおなじみの犬種「ダルメシアン」の発祥地だ。そんなダルマチア地方で最大の都市が「スプリト」である。
アドリア海から見たスプリト。
スプリトの世界遺産「ディオクレティアヌス宮殿」。
ダルメシアンと散歩する人。
スプリトは圧倒的に欧米人観光客が多く、現地のレストランのメニューは「欧米人が受け入れやすい」内容が多かった。もちろん郷土料理もあるけれど、パスタとかピザが目立つ。イタリアやクロアチアについてよく知らない私とかには「イタリアの観光レストラン」に見えたりした。
スプリトのピザ屋のピザ。
景色を味わう
そんなスプリトで、現地の人に「おすすめのレストランはどこ?」とざっくり聞くと、(だいたいいつも)速攻で返ってくる答えがある。それが、今回の海鮮ニョッキを食べた「Teraca Vidilica」だ。スプリトの観光エリアにある裏山を登ったところにある。
裏山。
神社とか寺の雰囲気もあった。
スプリトの名所クラスな、オススメされがちなレストランの「Teraca Vidilica」。まるでガタイの良いテントのような風貌だった。テラス席がメインのお店らしい。窓も扉も無いけれど、「景色を味わう」で一点突破したような、思い切りのいい思想-インテリア-だった。
Teraca Vidilica。
エントランス。
「love」も感じられた
店内には、ハート型で統一されたタッキーなクッションが設置されていた。そういう清々しさに、私が盛り上がった。いちおうトリップアドバイザーでは「ナイトライフの人気スポット」ということになっていたし、おそらく夜景のデートスポットの有力候補なのだろう。
ハート型で統一された、タッキーなクッション。
ナイトスポットとはつゆ知らず、日が燦々と照る真昼間に来てしまった。でも景色は美しかった。スプリトの街や山やアドリア海を、いっぺんに眺められる。京都の圓通寺クラスの借景だったし、文句なしの「絶景レストラン」だった。インテリア-思想-からは、形で「love」も感じられたし。
圓通寺クラスの借景。
右角の席だったらアドリア海も見えた。
地ビールのオジュイスコ(with love)。
メニューは「肉とか魚とかの観光イタリアン」といったところで、ガストロノミーを探求する場ではなさそうだ。「景色がメインだから料理は無難が最前」な気配だ。確かに、ここまできてメイドカフェとかだったら、ガチャガチャして具合が悪いかもしれない(それはそれで興味があるけれど)。
「スプリトはやっぱり海鮮料理」と調教されていた私だから、「海鮮ニョッキ」をオーダーした。ニョッキはジャガイモの団子状パスタだ。メニューには、イタリア語(を用いた英語)で「GNOCCHI DI MARE」と記載されている。「シンガポールチキンライス」を「海南鶏飯」と呼ぶのと同じ思想だ。
海鮮ニョッキ/GNOCCHI DI MARE。
海鮮ニョッキには、エビやサーモンがライトなクリームで和えられていて、クリームシチューみたいだった。私はクリームシチューが嫌いだけど、海鮮系の麺料理は大好きだ。そしてここはクロアチアだけど、イタリアンレストランだ。酸いも甘いも味わえて、折衷案として最高のメニューだった。
海鮮ニョッキについて、高みから評価を下した物言いだけど、真下から崇めてアゲたいくらい、好きだった。アツアツでモチモチ、クリームの動物性脂肪、磯の香りとUMAMI、無限ループ可能な塩梅。間違いなく、世間で「美味しい」と呼ばれている味だ。あとなにより、空気が美味しかった。
言語化するとブスになってしまう。
これは比喩ではなくて、本当に空気は美味しかった。匂いの属性としては、地上で早朝に匂ってくるやつで、刹那的でプレミアム(?)な香りだった。捕獲して身体に保存できなかったので、言語化するとブスになってしまう。でも確実に、海鮮ニョッキよりは美味しかった。次は逃さない。
帰り道の住宅街。
街・山・海をすべて見渡せる圧倒的俯瞰と、ふきぬける風。山の匂いが強めの空気。すずしいけどちょっと生暖かい。呼吸する度に、そういう要素が鼻孔に一挙到来する場所だった。ここでしか味わえない価値が、まさにハナから感じられた。レストランは何もしてないけれど。
とはいえやはり、どこにでもある「空気」を美味しくさせるなんて、なかなか出来ることではない。この日、この場所に、このレストランが存在したから成立した事象だと思う。さもなくば、空気みたいな「空気の存在」なんて素通りだった……というか、通ってすらいなかったと思う、こんな道。
名店は、なるべくして名店なわけだ。
お店の裏のユダヤ人墓地からは、タバコのフレイバーがした。